山の楽しみからにいろいろな種類があるように、バックパックもそれに合わせたモデルが作られています。同じサイズや容量のモデルでも、目的が違えば、使い勝手も違う。そして驚くほどに、背負い心地にも違いがあるものです。
「ラッシュ30」は中型サイズのバックパック。ジョギングからアドベンチャーレースまで、ランニングを楽しむためのアイテムを集めた「RUN」のカテゴリーに属するモデル。荷物を極力減らして、軽い荷物で駆け抜けるように山を移動する、ファストパッキングのために作られた、軽量フレームレスパックです。











着るように背負って早足で移動する
ファストパッキングのための軽量バックパック
ストレッチメッシュと100Dナイロンの組み合わせに、イエローのコードがアクセントの、極めてシンプルなフロントデザイン。一般用の登山用モデルに多く見られるような、フロントポケットやベルト、ギアループなどはありません。
ショルダー周りには、トレランに用いられるランニングベストの要素が強く感じられます。両側の幅広ベルトには、2段のストレッチメッシュポケット付き。上段にはスマホやジェルなどのフラットなものが、下の段は500㎖ボトルやフラスクなどが入るマチ付き。吸水やエネルギーチャージにも足を止めたくない、ファストパッカー御用達の仕様です。
肩から胸周りを広く包み込むような大きな形に、ソフトなパッド入りの適度な厚みが、荷物の重さを広い面積に分散し、肩へのストレスを軽減。
チェストストラップは2本を装備。上下5カ所のスリーブに差し込んで使う形なので、位置を自分で調節して、フィット感を高めることができます。上のバックルはホイッスル一体型で、いざというときの備えも万全。
ウエストベルトはミニマムな設計で、動いた時に腰から本体がずれないようにする役割に徹します。
両サイドにもストレッチメッシュポットがひとつずつ。背負った状態で出し入れでき、口部分に幅広のゴムが付けられていて、中身を落とさない工夫もしっかり。
フロント上部のストレッチメッシュポケットへは、トップ部分のファスナーからアクセス。内部にキーホルダーも備えられています。伸縮性に加えてマチもとられているので収納力があり、小物から衣類まで、入れるものを選びません。
ショルダーハーネスとトップ部分を繋ぐバックルを外すと、メインの収納への開口にアクセスできます。
中央のストラップを外したら、黄色のハンドルを持って左右に引けば一発で全開。手前が低く、奥が高く斜めに付けられているため、開口が大きく中身がよく見えて出し入れもスムーズ。
ウエストベルトを付けたまま両方のショルダーを肩から外し、くるりと体の前に回せば、バックパックを降ろさずに荷物が出し入れできます。
中央のストラップには、マットやウェアなど、大きなものを挟んで収納できるトップホルダーも装備。しっかりと固定でき、背負ったときに首の動きを妨げない設計がされています。
内部には小型のファスナー付きポケットがひとつ。防水仕様なので、バッテリーやメモリーカードなど、水に濡らしたくないものはここに入れておきましょう。
背面には大型のハイドレーションスリーブを装備。上部の面ファスナーのフックに、ハイドレーションを吊るして使います。それ以外にも、フラットなものの収納にもぴったり。
そして、上の面ファスナー付きのフラップを開けると、ウレタン製の軽量背面パッドが収納されています。背面パッドは取り外しができ、テントマットにプラスしたり座布団代わりに使ったりすることも可能。他のマットに交換してもいいでしょう(エバニュー/FPマット100が収まるサイズです)。上部内側には、背面パネルの安定性を支える、コンパクトなプレートを内蔵しています。
さらに、メインコンパートメントへは、サイドのファスナーからもアクセスが可能。右脇部分に、上下に28㎝近くの大きさで開くので、トップを開けずに、すばやく荷物の出し入れができるのは便利。ボトム部分にももう一つ、大型ファスナーポケットがあり、背負ったまま後ろ手で開閉することができます。
付属パーツ
ボトムポケット
まずは、専用レインカバー。ボトムポケットにいれておけば、急な雨でもすぐに取り出せます。
次に、バンジーコードが、ショート2本とロング1本。ボディ7カ所にあるループにコードを通し、コードロックパーツを使って止めるだけで、好みのスタイルにカスタマイズして使えます。
ソフトフラスク使用時には付属のバンジーコードで飲み口を留めます
そして、付属パーツと呼ぶのかは疑問ですが、パーゴワークスお得意の、外付け背面パッドも装備。汗をかいたら外して乾かしたり洗ったりすることができ、クッションやテントマットの補助としても使えるギミックは、一度使ったら手放せません。
こうして全体の詳細を確認したところで、話を最初に戻しましょう。
キーワードは「荷重バランス」
ファストパッキング用と登山用では、理想とする背負い心地がまったく違います。その最大の理由は、ファストパッキングでは、「重い荷物を背負わない」ことを前提としているからです。そのため、一般的な登山用バックパックのように丈夫なフレームや、しっかりとしたヒップベルトもありません。
しかし、宿泊を伴うファストパッキングなら、荷物を最低限に抑えても、かなりの重量を背負うことになるはず。その重さを、フレームレスのバックパックでどのように解消するのでしょうか?
その秘密を紐解くキーワードは「荷重バランス」。
登山の荷物は、肩にかかる荷物の重さを、腰に分配して背負うのが一般的な考え方。そのため荷物は、背中全体を覆うように比較的下の位置で受け、腰に荷重が加わるようにヒップベルトで体にフィットさせます。
一方でファストパッキング用のバックパックは、腰ではなく背中で背負うように作られています。ちょうど赤ちゃんをおんぶするときに、ちょっと上で背負うと楽に感じるのと同じ。肩甲骨のあたり、高い位置で荷重を受け止めて、覆いかぶさるように体に密着させて背負います。
このバランスで楽に荷物を背負うために、非常に重要なのがフィッティング。ラッシュ30のフィッティング方法を順に確認していきましょう。
まず両脇のストラップを引いて、ショルダーの長さを調整します。このストラップは、ショルダーだけでなく本体にも直接つながっているので、引くことにより長さ調整と同時に、荷物が体の方に引き寄せらせます。
次はチェストベルトの調整。使いやすい高さのスリーブにベルトを取り付けたら、バックルを閉じて長さを調整します。動きにくくならない範囲でしっかりとしめて、上下のベルトが同じ長さになるようにします。
最後に上部にある左右のスタビライザーをしっかりと引きます。そうすると荷物がおんぶされたように体に覆いかぶさり、荷重が肩甲骨のあたりに集中して安定します。
そして、背負った状態でフロントのコードを下に引いてロックすれば、荷物の量に合わせてコンプレッションが可能。安定感を邪魔する荷物の揺れを抑えます。一般的なコンプレッションは、横方向に荷物を圧縮しますが、フレームレスのモデルは、横方向に力がかかると、全体の形が崩れて背負い心地が悪くなります。それを解消したのが、この縦方向のコンプレッション。限りなくミニマムで合理的な方法です。
背負った様子を横から見ると、荷物が高い位置にあり、腰のあたりには明らかに重さがかかっていないのがわかります。体が上の方で荷物と一体化したような背負い心地。
この感覚は、腰で背負うバックパックだけを使っていた人には、かなり新鮮に感じられるしょう。しかし、少し動いてみれば、なぜか荷物が軽く感じられるはず。ふらつかず安定して歩けることがすぐにわかります。
フレームやパッドも最低限に抑えているため、軽さを意識しないテント泊用の荷物は、重すぎてこのモデルには向きません。しかし、余計なものを持たず、軽量化をしっかり意識した10キロ前後の荷物なら充分使えるので、これひとつでテント泊も可能。
速さを求めるファストハイキングだけでなく、じっくりと登るスタイルの登山でも、荷物と体が一体化するような安定感は、ハシゴやクサリ場、不安定な場所などでとても有効でしょう。
フレームレスならではの、パッキングのコツもあります。中で荷物が揺れないように、隙間なく全体にバランスよく詰めることを意識して。
シュラフやウェアなどを、スタッフバッグから出してバックパックに入れ、コンロなどの重さのあるものの隙間を埋めるのもひとつの手です。また、クッションやテントマットなどを縦に収納して、フレームの代わりにするのもおすすめです。
サイズバリエーションがないので、女性や小柄な方には背面長がオーバー気味に感じられるかもしれません。
肩のスタビライザーの調整範囲がもう少し大きいと、より幅広い体型の人に合いそうな気もしますが、発売以来多くのファストパッカーの信頼を得てきた「ラッシュ28」の後継モデルとして、さらに進化したラッシュ30。
その実績に裏付けされた快適性には間違いはありません。いつもより少し軽くした荷物をラッシュ30に詰め込んだら、きっといつもより早足で歩きたくなるはずです。
商品詳細
ブランド |
PaaGoWORKS(パーゴワークス) |
名称 |
ラッシュ30/UNISEX |
素材 |
100Dナイロン |
重量 |
690g |
サイズ |
530X260X230mm |
容量 |
30L(ポケット含む) |
付属品 |
レインカバー、バンジーコード、コードロック |
カラー |
ミッドナイト(ブラック) |